原始地球の状態

原始大気の組成

 現在の地球の大気中には,窒素が78%,酸素が21%,アルゴンが0.9%,二酸化炭素が0.03%の割合で,そのほかにネオン,ヘリウム,メタンなどが微量成分として存在している。

 しかし原始地球上に存在した大気は,現在の大気とは全く異なるものであった。

 かつては,原始地球大気は,現在の木星の大気に似た組成を持っていたと考えられていた。つまり,大気の主成分は,水素,メタン,アンモニア,水蒸気であると考えられていた。

 このような組成を持つ原始大気のことを,「還元型原始大気」と呼んでいる。以前に述べたオパーリンの化学進化のシナリオでは,還元型原始大気中のメタンとアンモニア・水素などが反応して,アミノ酸などの有機化合物が生成したとされている。還元型大気を原料にすると有機化合物が容易に生成するので,以前は還元型大気説が広く信じられていた。このことについては,化学進化の実験的研究を解説するときに詳しく説明する。

 現在では地球が生成した当初は非常に高温であったと考えられている。そして,地球が誕生した頃に存在した大気は,どろどろに融けていた地球が冷えてきた頃に,内部から脱ガスしてきたものであると考えられている。このような高温の状態では,メタンやアンモニアは安定に存在できず,二酸化炭素や窒素ガスになってしまう。

 このような状態で脱ガスされるガスの主成分は,水蒸気が最も多く,次いで二酸化炭素,窒素,亜硫酸ガス,一酸化炭素,塩化水素ガスなどである。つまり,現在の火山ガスのようなものが集まって原始地球大気を形成したと考えられている。このような組成を持つ原始大気のことを,還元型原始大気に対して「酸化型原始大気」と呼んでいる。ちなみに,ハワイのキラウエア火山が噴出した火山ガスの組成は,水蒸気が約80%,二酸化炭素が約11%,亜硫酸ガスが約6%,水素ガスが約0.6%,一酸化炭素が約0.4%であった。

 原始地球の生成過程を考慮すると,原始大気は酸化型原始大気であったと考えざるを得ない。しかし,酸化型原始大気を原料にすると,有機化合物は非常に生成し難いことがわかった。つまり,原始地球上での化学進化の時代に,生物が出現するのに十分な量の有機化合物が生成しない可能性があることがわかったのである。このことについても,化学進化の実験的研究を解説するときに詳しく説明する。

 還元型原始大気にしても,酸化型原始大気にしても,現在の大気中で2番目に多く存在する酸素は存在していなかったと考えられている。現在の大気中に存在する酸素は,すべて植物の光合成によって生成したものである。つまり,まだ生物が存在していなかった時代には,現在のように多量な酸素は存在していなかったと考えられている。

 現在のところ,地球上に存在した原始大気は「酸化型原始大気」であったという説が優勢である。

原始海洋の生成

 現在の海洋は,地球の表面の約70%の面積を占めており,その平均深度は約3800mで,海水の量は1.4×1021kgである。この膨大な量の海水も,やはり地球の内部から脱ガスしてきたと考えられている。ここでは,酸化型原始大気説を基にして,原始海洋の生成に関して解説する。

 原始大気中の水蒸気は,地球が冷却するに従って,雨となって地表に降り注いだと考えられる。この雨が地表にたまって原始海洋を形成した。安定な海洋が形成されると,原始大気中に多量に存在した水蒸気の量は大幅に減少する。また地表に降り注ぐ雨の中には塩化水素ガスや亜硫酸ガスが溶け込んでいるために,生成した直後の原始海洋は強酸性であったと考えられる。この強酸性の原始海洋は,地表の岩石中に存在するナトリウムやカリウム,カルシウム,マグネシウムなどの金属元素を溶かし込みながら中和されていく。そして,pH8付近になって安定に存在するようになる。このpHは,現在の海洋のpHにほぼ等しい。

 海洋のpHが中性になると,大気中の二酸化炭素が海洋中に溶け込んでいく。海洋中に溶け込んだ二酸化炭素は,カルシウムイオンと結合して石灰岩を形成し,海底に堆積する。この反応によって,原始大気中の二酸化炭素の量は減少し,窒素ガスや一酸化炭素を主成分とした大気が形成される。

 以上のような過程を経て原始海洋が生成したと考えられている。このようにして生成した原始海洋は,現在の海洋とほぼ等しい塩分組成を持っていたと考えられる。

 原始地球上に海洋が生成した年代ははっきりわかっていない。しかし,現在までに発見されている地球上で最も古い約38億年前の岩石が堆積岩であることから,遅くとも約40億年前には安定した海洋が生成していたと考えられる。

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