地球以外の天体との比較

太陽系内の他の惑星

 太陽系には8個の惑星がある。太陽に近い順に,水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星である。火星と木星の間には小惑星と呼ばれる惑星よりもひとまわり小さい天体が太陽の周囲を回っている。

 水星・金星・地球・火星の4個の惑星を内惑星,木星・土星・天王星・海王星の4個の惑星を外惑星と呼ぶ。内惑星と外惑星はその構造が極端に異なっている。内惑星の直径は比較的小さく,中心に鉄を主成分とする核が存在し,その周囲を岩石層が取り巻いているという,地球に類似した構造を持っている。また惑星の表面には,少量の大気が存在している。その大気は二酸化炭素が主成分であり,少量の水蒸気・窒素ガス・アルゴンを含んでいる。この大気組成は,地球が誕生した時の原始大気組成に類似していると考えられている。

 一方冥王星以外の外惑星は概して直径が大きく,惑星の中心には岩石からなる核が存在すると考えられていて,その周囲には分厚い大気が取り巻いている。その大気の組成も主成分は水素・ヘリウム・水・メタン・アンモニアであり,地球大気とは全く異質の組成を持っている。この大気組成は太陽の大気組成に類似している。またリングの存在も外惑星の特徴である。「ボイジャー1・2号」による外惑星の探査の結果,土星以外の外惑星にもリングが存在することがわかった。しかし,なぜリングが存在するかということに関しては,現時点ではよくわかっていない。そして外惑星には多くの衛星が存在し,それぞれがミニ太陽系を形成していることも特徴の一つである。

 現在までに人類が観測を行ったことがある惑星は,地球と月以外では火星・金星・水星・木星・土星・天王星・海王星の7個,及びそれらの衛星である。これらの惑星及び衛星は探査衛星によって観測された。

1)火星

 19世紀のイタリアの天文学者ジョバンニ・スキャパレリ(1835−1910)は1877年に火星の表面に縞模様があることを発見し,それを「カナル(水路)」と名付けた。20世紀初めに,アメリカの天文学者パーシバル・ローウェル(1855−1916)は,望遠鏡による観測の結果,カナルは実際に「運河」であると主張した。

 しかし,1965年から1971年にかけて,アメリカの探査衛星「マリナー4・6・7号」が撮影した写真には運河のような人造物は写っていなかった。それどころか,火星の表面には月と同じようなクレーターが多数存在することがわかった。また,川のように水が流れていた痕跡が発見されたことから,以前には火星の表面にも液体の水が存在していたと考えられている。最近の分析では,このような水の流れた痕跡の内の一つでは1秒間に約10億トンの水が流れた可能性があるという結果が出ている。この大洪水が起こったのは,今から10億〜30億年前であると推定されている。しかし現在は,火星表面には水は存在していない。火星の極地方にあたる地域に存在する「極冠」と呼ばれる部分と,おそらく地下に氷という形でしか水はないと考えられている。

 1979年にアメリカの南極観測隊がエレファントモレーン地方でEETA79001隕石を発見した。この隕石に閉じこめられていたガス成分を分析した結果,「バイキング」によって得られた火星大気の組成に類似していることがわかった。その後の詳細な分析の結果,EETA79001隕石は13億年前の火星から飛来した隕石であるということになった。また,この隕石の亀裂の中から炭酸カルシウムや硫酸カルシウムが発見された。このことは,13億年前の火星の表面に液体の水が存在していたことを示す直接の証拠であると考えられている。

 「マリナー」などの探査衛星による観測の結果,火星に関して次のようなことがわかった。火星の平均表面温度は-55℃である。また火星の大気組成は,主成分として二酸化炭素が95%・窒素ガスが2.7%・アルゴンが1.6%で,少量の酸素・一酸化炭素・水蒸気が存在する。また,表面での大気圧は0.007気圧という小さい値である。

 探査衛星による観測の結果,火星には少なくとも「火星人」,あるいは,肉眼で観測できる程度の大きさの生物は存在しないことが明らかになった。しかし,バクテリアなどの生物が火星に存在する可能性は残っていた。

 1976年にはアメリカの観測衛星「バイキング1・2号」が火星に着陸し,火星の表面に生物が存在するかどうかを直接調べた。

 まずカメラによる観測の結果,火星表面に「動物」及び「植物」が存在しないことがわかった。

 次に,火星表面の土の中に有機化合物が含まれているかどうかを分析した。この実験は,採取した火星表面の土を段階的に500℃まで加熱して,放出されてくるガスを分析して有機化合物を検出するという方法で行われた。その結果,土の中に吸着されていた二酸化炭素と水分が検出された。しかし,有機化合物の存在量は検出限界以下であった。この実験から火星の土の中には有機化合物が1ppb(10億分の1)以下しか存在しないことがわかった。

 以上の2つの実験は,物理的あるいは化学的な実験である。次に生物学的な実験で,バクテリアなどの目に見えない生物が存在するかどうかを3種類の方法で調べた。

 最初に「気体交換反応(GEX)実験」という実験を行った。これは,火星の土を採集して,微生物の代謝によって生ずるはずの気体の変化を測定する実験である。微生物が存在すれば,酸素が消費されて二酸化炭素が増加するはずである。まず,最初に表面の土に水を加えると急激に酸素が放出された。次に有機化合物を含むスープを加えたが,今度は少量の二酸化炭素が放出されただけで,それ以外は何も起こらなかった。現在では,この結果は生物によるものではなく,火星表面に存在する何らかの酸化性の物質によるものであると考えられている。

 「気体交換反応(GEX)実験」以外にも「加熱放出反応(PR)実験」と「放射性気体放出反応(LR)実験」という2種類の実験を行ったが,いずれの結果も火星表面に生物が存在することを証明できなかった。

 「バイキング1・2号」の観測の結果は,火星表面には生物は存在しない可能性が高いことを示唆している。しかし,その存在が完全に否定された訳ではない。「バイキング」は,着陸した場所を中心にして12m2の範囲しか調べられない。つまり非常に狭い範囲しか分析していないことになる。そして「バイキング」が着陸した場所が生物が生活するのに適した場所ではなかったということも考えられる。なぜなら「バイキング」が着陸した場所には,液体の水がほとんど存在していないからである。今後は火星表面で液体の水が存在する可能性がある場所,例えば極冠の近辺で同様な実験を行ってみることが必要であると思う。

 火星における生命の存在に関して重要な発見が,1996年に報告された。アメリカのNASAの研究員らが,南極で発見された火星起源の隕石であるALH84001隕石から,バクテリアの微化石のような構造体を発見したと報告した。この隕石は45億年前の火星で生成し40億年前に熱による変成作用を経験している。そして,1600万年前に何らかの理由で宇宙空間へ飛び出し,13000年前に南極へ落下したということがわかっている。この隕石の亀裂の中にEEA79001隕石と同様に炭酸塩が発見された。炭酸塩の生成年代は36億年前であった。そして炭酸塩の周囲に有機化合物である多環芳香族炭化水素分子(PAH)が存在し,生物由来とも考えられる磁鉄鉱・硫化水素も発見された。さらに,電子顕微鏡で観察すると地球のバクテリアに類似した構造体が確認された。但し,この構造体は地球上のバクテリアの10分の1程度の大きさしかなく生物の痕跡であるとは,まだ決定されていない。NASA以外にもALH84001隕石を分析している研究グループはあるが,そこではこの構造体は確認されていない。しかし,この発見は地球以外の太陽系内の生命の存在に関する研究の,マイルストーンの一つになる可能性がある。

 地球の南極には様々な生物が存在している。例えばロス砂漠は,平均気温—27℃・年間降水量100mmという場所である。火星の極冠の近辺も,このロス砂漠のようなきびしい環境であると考えられる。しかし,南極の中でも最も過酷な環境と思われるロス砂漠の岩石の中にも,コケの仲間や藻類・バクテリアが存在している。このことから,火星の極冠近辺にも十分に生物が存在する可能性はあると考えられる。

 現在の火星に生命が存在していないとしても,火星表面に液体の水が豊富に存在していたと考えられている10億〜30億年前までは生命が存在していた可能性はある。地球で発見されている最初の生命の痕跡は,約35億年前のバクテリアやストロマトライトの微化石である。10億年前までは火星の歴史と地球の歴史がそれほど異なっていないと考えると,火星上にも生命が誕生していても不思議ではない。これを調べるためには,やはり火星の岩石のサンプルを直接分析することが必要であると考えられる。NASAでは2008年に無人探査衛星が火星の土を地球に持ち帰り,2014年頃に火星への有人飛行が予定されている。

2)金星

 金星は地球に最も近い惑星であり,その大きさや密度も地球よく似ている。また,金星は地上で観測される天体の中で最も明るい天体である。しかし,金星は厚い雲に被われていて,地上からの観測では金星表面の観測は火星のようには出来なかった。

 1961年以降,探査衛星による観測が行われるようになって初めて,金星の表面の情報が得られるようになった。その結果,金星表面の環境に関して次のようなことが明らかになった。金星の平均の表面温度は約450℃である。大気の組成は,主成分として二酸化炭素が98%・窒素ガスが1.8%で 少量の水蒸気・亜硫酸ガス・アルゴン・一酸化炭素が存在する。また金星表面の大気圧は,90気圧という大きな値を示している。

 探査衛星による観測の結果,地上からの観測を邪魔していた雲は金星の上空50〜80kmに存在する硫酸の雲であることがわかった。また,金星の表面の地形は変化に富んでいて,20%の低地・70%のなだらかな高台・10%の高地に分けられる。また,ある部分にはクレーターらしい構造も見られる。しかし,表面温度からもわかるように海は存在していない。

 現在のところ,金星に生命が存在する可能性は非常に低い。少なくとも,「地球型」の生命は金星には存在しないと考えられる。

3)外惑星の衛星

 木星以遠の外惑星に関するデータは,「パイオニア」や「ボイジャー」などのアメリカの惑星探査衛星によって得られている。

 しかし,木星や土星などの巨大惑星に地球型の生命が存在するとは考え難い。もし存在するとすれば,全く異なった形態の生物であると考えられる。例えば,アメリカの天文学者セーガンは木星の大気中にクラゲのように浮遊して生活している生物が存在する可能性があると述べている。

 これよりも生命が存在する可能性が高いのは,巨大惑星の衛星である。巨大惑星の衛星は,主惑星の潮汐作用によってかなり大きなエネルギーを得ている。そのため,太陽から遠い位置に存在しているにも係わらず,衛星は活動的であることがわかってきた。木星の衛星イオでは活火山の存在が確認されている。

 巨大惑星の衛星には大気を持つものがいくつか存在する。例えば,土星の最大の衛星のタイタンは,窒素ガス(80%)とメタン(5%)を主成分とする大気を持っていることが探査衛星による観測以前から知られていた。「ボイジャー」はタイタンの大気中に簡単な有機化合物が存在することを発見した。また1985年にセーガンらは,タイタンの大気組成に似た混合気体に紫外線を照射すると,15種類のアミノ酸を含む有機化合物が生成することを報告した。このアミノ酸はL-型とD-型の混合物であった。この実験結果は,タイタンの表面でも化学進化が起こり得ることを示している。

 また,木星の第3衛星のエウロパも注目されている。エウロパの表面は厚い氷で被われているが,最近,その内部には大量の液体の水が存在していることがわかった。惑星表面下50kmに存在する海中に,生命が存在する可能性があると考えている科学者もいる。

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