地球にだけ存在する生命は，地球という惑星の環境を考える上で無視することができないファクターである。実際に，現在の地球環境は生命がつくったといっても良い程である。生命と地球環境がどのように関係しているかを次に解説する。
植物による大気組成の変化
先に述べたように原始地球の大気は，現在のものとは異なり，水蒸気と二酸化炭素を主成分とする大気であった。原始地球の表面温度が低下すると水蒸気が液体の水になって惑星表面に留まるようになり，海洋が生成した。そして，先に述べたような一連の変化の後に，窒素ガスと一酸化炭素・二酸化炭素を主成分とする原始大気が地球の大気圏を形成する時代になった。
地球大気の次の大きな変化は，植物の出現によって引き起こされた。植物は水と大気中の二酸化炭素を原料にして，太陽光のエネルギーを使用して有機化合物を作り出す光合成反応を行なう。そして，この光合成反応の副生成物として，酸素ガスを生成する。現在の地球大気の20％程度を占めている酸素ガスは，植物の出現以前には大気中にはほとんど存在しなかった。そして当時の生物にとっては，酸素ガスは周囲に存在する物質を酸化してしまうため，非常に強い毒性を持った物質であった。
光合成を行なう植物は最初は海面下10m以深の海の中に生息しており，海水中に酸素ガスを放出していた。その結果，まず海水中に溶けていた鉄などの金属イオンを酸化することで酸素ガスが消費されていった。生成した酸化鉄は，海底に沈澱して鉄鉱石を形成することになった。
27億年程前に地球に磁気圏が生成したために，生物にとって有害な宇宙線の量が減少した。そのために植物は海の浅い場所に進出して，強い太陽光を利用して光合成がより効率的に行なわれるようになった。ストロマトライトと呼ばれるシアノバクテリアが形成するドーム状の岩石がこの時代の地層から発見されている。シアノバクテリアは光合成を行う原核生物である。
そして，海水中の金属イオンを酸化することで消費されきれなくなった酸素ガスが次第に海水中に蓄積していった。西オーストラリアなど世界各地に存在する大規模な縞状鉄鉱層（Banded Iron Formation, BIF）はこの時代に生成したものである。
先に述べたように，酸素ガスは毒性が強いので，当時生息していた生物は次第に数量が減っていって絶滅寸前にまでなった。しかし，猛毒である酸素ガスを利用して，有機化合物を効率良く分解して生存するために必要なエネルギーを効率良く獲得する生物が出現し，その生物が地球全体に広がっていった。酸素呼吸を行なう生物の出現である。そして，21億年前には細胞内に核を持つ真核生物が誕生した。そして10億年前には多細胞生物が誕生した。
海水中に充満した酸素ガスは，次第に大気中にも蓄積するようになり，その濃度を増していった。そして，現在の酸素濃度の10分の1の濃度に達した時，成層圏にオゾン層が形成された。今から約4億5000万年前のことである。それまでの地球にはオゾン層が存在していなかったので，生物にとって有害な紫外線が地表に大量に降り注いでいた。そのために，生物は海面下数mの海洋中でしか生息できなかった。陸上は植物も動物も存在しない荒涼とした世界であった。
成層圏にオゾン層が形成されたために，地表における紫外線強度が大きく減少し，海洋の浅い部分で生息できるようになった。その結果，植物は光合成をより活発に行えるようになり，植物を餌にしている生物も数量を増すことができるようになった。しばらくすると，まず植物の中から地上に上陸して繁殖するものが現れ，昆虫などの動物の中にも地上で生息できるものが出現した。そして大気中の酸素濃度はさらに増大し，現在の大気組成に近付いていった。
このように，植物の光合成で酸素ガスが生産されて大気中の濃度が増大したわけである。しかし，注意しなければいけないことが一つある。光合成で生成した有機化合物は生物が死んだ後で分解されることになる。その時には酸素ガスを消費して二酸化炭素と水を生成する。つまり，光合成の逆反応の分解反応である。となると，光合成の副産物として生成する酸素ガスが大気中に留まるためには，生物の遺骸が分解されないような状態が必要になる。その状態は，生物の遺骸が海底に堆積することによって達成される。海底に堆積した生物の遺骸は，圧力などによって変成して石炭や石油などの化石燃料になる。
また，現在の大気中の酸素ガスの濃度が21％程度で安定しているのにも理由がある。酸素ガスは化学反応を起こす力が強く，酸素ガスの大気中の濃度が30％以上になると，自然発火が起き易くなり，森林などの山火事が多く発生して酸素ガスを消費する。そのために大気中の酸素ガス濃度は21％で安定しているのである。