宇宙・元素の生成

1) ビッグバン理論(膨張宇宙理論)

 現在広く認められている理論によると,宇宙の誕生時には『ビッグバン』と呼ばれる大爆発があり,その勢いで膨張が始まった,とされている。ビッグバン以前には,イーレムと呼ばれる中性子の塊が存在するのみであった。ビッグバン後の最初の数秒間で最も単純な元素である水素原子が生成し,次の30分間の内にヘリウム原子が生成した。宇宙における水素原子とヘリウム原子の存在の割合は10対1である。このビッグバン理論は,1927年にルメートルによって,1948年にジョージ・ガモフ(1904−1968)らによって提唱された。ガモフは,イーレムと呼ばれる超高温・超高密度のエネルギーの塊が爆発を起こし,光速度に近い速さで膨張し,その爆発の際に今日存在するすべての元素が生成した,と考えた。

 ガモフがビッグバン理論を発表する以前に,1929年にエドウィン・ハッブル(1889−1953)は我々の銀河系外の島宇宙(銀河)のスペクトルを測定した際に,すべてのスペクトルが赤方偏移を示すことを発見した。このことは,すべての島宇宙が我々の銀河系から遠ざかっていることを示している。つまり,宇宙が膨張していることが示された訳である。

 また,アーノ・ペンジャス(1933− )とロバート・ウィルソン(1936− )は,1965年に全く等方的な3K(−270℃)の物質からの輻射に相当する宇宙背景輻射を発見した。この輻射は,ビッグバンの名残であると考えられ,ガモフはこの宇宙背景輻射の存在を予言していた。

 この2つの観測事実から,1960年代後半からはビッグバン理論(膨張宇宙理論)が広く信じられるようになった。

 2) 元素の生成

 ガモフはビッグバンの際に今日存在するすべての元素が生成したと考えたが,現在ではビッグバンの直後に生成した元素は,水素原子・ヘリウム原子・リチウム原子・ベリリウム原子・ホウ素原子までの単純な原子だけであったと考えられている。また水素原子とヘリウム原子以外は極少量しか存在しなかった。つまり,誕生したばかりの宇宙は,多量の水素原子と,その約10分の1のヘリウム原子だけが存在する世界であったと考えられる。

 ホウ素原子よりも大きな(重い)元素はどの様にして生成したのであろうか?それらの元素は太陽のような恒星の内部で生成したと考えられている。ビッグバンの1億年後には,宇宙に恒星が誕生し始めた。そのころの宇宙はほとんど水素原子とヘリウム原子だけから成っていた。恒星の内部は非常に高温・高圧であり,そこでは熱核融合反応が起こっている。恒星内での熱核融合反応では,炭素原子・窒素原子,マグネシウム原子・ケイ素原子などの比較的小さい(軽い)元素が生成された。

 しかし,恒星内の熱核融合反応によってでも,原子量56の鉄原子までの元素しか生成しない。鉄原子よりも大きい(重い)元素は,中性子捕獲反応と呼ばれる反応で生成する。この反応は,恒星の内部や超新星の爆発の際に発生する中性子が関与する反応である。この中性子捕獲反応によってウラン原子などの重元素が生成する。生成した元素は,超新星の爆発の勢いで,全宇宙に広がって,それらを原料にして,二代目・三代目の恒星系が生成するわけである。そうして生成したのが,我々の太陽系である。

 つまり,今日存在する元素がすべて出揃うためには,ビッグバンによって宇宙が誕生してから初代の恒星が超新星になった頃までの時間が必要であった訳である。その間は,約20億年ぐらいであったと考えられる。生命が誕生するためには,ある程度の重元素の存在が必要である。従って,宇宙が誕生した直後に生成した恒星系には生物は発生しなかったと考えられる。つまり,もし,太陽系(地球)以外の恒星系の惑星に生命が存在するとしても,その恒星系は第二世代以降の恒星系であると考えられる。ちなみに,現在の宇宙の年齢は約150億年であるとされているので,最も古い生命体が存在するとしても,その年齢は約130億年である。これは,地球上の生命体の歴史の約3倍の値である。

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