水について

水の性質

 我々の周りに存在する物質の内,その存在量が多くて重要な物質は水(H2O)である。先ほど述べたように,水分子は水素原子2個と酸素原子1個が結合してできている,地球上では全くありふれた物質である。しかし,水は他の物質と比較するととても奇妙な性質を持っている。

 水を冷やすと0℃で氷になり,また熱すると100℃で水蒸気になる。我々にとってこれはごく当たり前のことであるが,この性質は他の物質と比較するとかなり異常なのである。例えば,窒素ガスは-196℃まで冷やさないと液体にならないし,固体にするためには-210℃まで冷やさなければいけない。日常経験する温度の範囲で気体・液体・固体の3種類の状態をとる物質は,水以外にはあまりない。

 そして,水は他の水類似物質と比較すると,異常に高い融点と沸点を持っている。水分子は,1個の酸素原子と2個の水素原子が結合してできている。酸素原子と2個の水素原子の成す角度は約104°である。酸素原子は弱い-の電気的性質を帯びており,水素原子は弱い+の電気的性質を帯びている。そのために,水分子は電気的な力で弱い結合を形成している。この結合は水素原子を介した結合なので,水素結合と呼ばれている。水素結合を切るのに余分なエネルギーを必要とするために,水の融点や沸点が高くなっているのである。

 また,普通の物質は温度が高くなると体積が大きくなり,温度が低くなると体積は小さくなる。しかし,液体の水の状態で最も体積が小さくなるのは4℃の時であり,0℃の時ではない。また,液体から固体に変化するとき,つまり水が凍って氷になるときに体積が大きくなる。そのために,氷は水に浮く。この性質は重要である。この性質のために水中で生活する生物,例えば魚などは,気温が0℃以下になっても水底で生活できるわけである。

 次に,水は非常に多くの物質を溶かし込むことができる。微視的に見れば,水に溶けない物質はほとんど存在しないといって良い。砂糖などの分子状物質や食塩などのイオン性物質はもちろんのこと,ごく微量ではあるがガラスやゴム・プラスチックなどの物質も水に溶ける。

 そして,水は熱容量が大きい。つまり温まり難く冷め難い。そのために,海洋という形で水が豊富に存在する地球の気温は寒暖差が小さくなり,我々が生活し易い環境が保たれている。

 また最後の2つの性質は,我々の体を構成する物質の3分の2程度が水であることにも関わってくる。生物が生きていくためには,体内で多くの化学反応を行う必要がある。水が多くの物質を溶かすということは,様々な化学反応を体内で行うのに好都合であると考えられる。また水が温まり難く冷め難いために,生物は体内の環境,特に体温を一定に保ち易くなっていると考えられる。

 ここでは詳しくは説明しないが,その他にも液体の水が,その表面張力や誘電率が他の物質に比べて大きな値を示すという特徴もある。

 以上のことを考慮すると,水はかなり特徴のある性質を持っていると考えられる。その特徴のために地球が現在のような環境を持つ惑星になり,また,生物が現在のような形態に進化してきたと考えられる。

pHについて

 液体の水の性質のあらわし方の一つに水素イオン濃度がある。液体の水は先に述べたように水分子(H2O)として存在するが,ごく少量だけ水素イオン(H+)とヒドロキシイオン(OH-)に分離している。そして液体の水は,水素イオン濃度の多寡によって,酸性・中性・塩基性という3種類の状態になる。水素イオン濃度は,普通はpH(水素イオン濃度指数)という数字であらわされることが多い。pHは次の式によって求められる。

  pH = - log 10  [H+]

かぎ括弧はモル濃度を示す。pH=7.0の時が中性で,水溶液中の水素イオン濃度とヒドロキシイオン濃度が等しい状態になっている。pH7.0が酸性,pH7.0が塩基性になる。pHは水素イオン濃度の対数をとっているので,pHの数字で1の違いは水素イオン濃度では10倍または10分の1になる。

 以上が化学における酸性・中性・アルカリ性の定義であるが,場合によってはこの定義とは少し違った形でこれらの言葉が使用されることがある。後述する「酸性雨」等がその例である。

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