原子と分子

 我々の周りにある物質は,すべて元素からできている。現在のところ,120種類の元素が発見・合成されている。 

原子説の歴史

 我々の周囲に存在する物質は,原子が集合してできている。原子がすべての物質の構成単位である。この概念を最初に唱えたのは,紀元前5世紀のギリシアの哲学者であるデモクリトス(BC460頃−BC370頃)である。デモクリトスは,それ以上分解できない究極の粒子が存在すると考えて,その粒子のことを「アトモス」と名付けた。アトモスとは,「それ以上分解できないもの」という意味である。もちろんデモクリトスの提唱した「アトモス」という概念は,現在我々が理解している原子の概念とは少々異なっている。例えば,デモクリトスは物質だけではなく精神や霊魂も「アトモス」からできていると考えていた。しかし,デモクリトスの提唱した「アトモス」という概念は,アリストテレス(BC384−BC322)が唱えた「物質連続説」に抑圧されて,あまり広まらずに終わった。

 今日の「原子」という概念の基礎を確立したのは,19世紀初頭のイギリスの物理学者(化学者)のドルトン(1766−1844)である。彼は質量保存則や定比例の法則などの化学変化の際の法則を説明するために,原子という概念を導入した。彼は,すべての純粋物質は一定の性質及び質量を持つ微粒子(原子)から成り,化合物の原子は単体の原子が結合したものであると仮定した。その後,イタリアの化学者のアボガドロ(1776−1856)が分子説を提唱して,ドルトンの原子を分子に改めた。そして,分子を構成する要素として原子を導いた。

 元素という概念は古代から存在した。例えばアリストテレスは,地・水・風・火の4種類を万物の根元の元素と考えた。このアリストテレスの概念は,中世の練金術師の時代まで信じられていた。その後17世紀のイギリスの化学者であるボイル(1627−1691)によって,元素とは実験的方法によってそれ以上単純なものに分けられない物質として定義された。物質としての元素は1種類の原子だけで構成されている物質である。また,元素という言葉は原子の種類を示す名称として使用されることも多い。

周期表の歴史

 元素を重さの順に並べていくと,周期的に性質の似た元素が出現してくる。1864年にイギリスの化学者であるニューランズ(1837−1898)が,8個毎に似た性質を持つ元素が出現してくることを発見した。彼はこれをオクターブの法則と名付けた。

 その後,1869年にロシアの化学者であるメンデレーエフ(1834−1907)によって「元素周期表」が作成された。元素周期表とは,重さの順(正確には原子番号の順)に元素を並べた表である。メンデレーエフは,周期表を作成する際に未発見の元素の場所を空欄にして周期表を作成した。そして,その前後の元素の性質から未発見の元素の性質を類推した。例えば,当時ガリウムやゲルマニウムなどの元素は未発見であったが,発見後にその性質を調べてみるとメンデレーエフが予想した性質とよく一致していた。

 また,メンデレーエフが周期表を作成した当時は質量の順に元素を並べていったが,1913年にイギリスの物理学者であるモーズリー(1887−1915)が原子番号の意味を正しく認識したことによって,原子番号の順に並べる方がより正確であることがわかった。

 その後,新しい元素が発見されると新たにつけ加えられて,現在の周期表ができあがった。周期表の特徴は,性質の似ている元素が同じ列に並ぶことである。

物質の状態と種類

 我々の周りには,大きく分けて3つの状態が存在する。固体(固相)・液体(液相)・気体(気相)である。物質の状態は温度・圧力の変化に伴い,可逆的に変化する。

 物質は,純物質と混合物の2種類に分類される。純物質は1種類の物質だけで構成される物質で,一定の物理学的・化学的性質を持つ(融点・沸点など)。混合物は2種類以上の物質が任意の割合で混ざり合って構成される物質であり,混合比によって異なる性質を持つ。

 純物質は単体と化合物の2種類に分類される。

 単体とは,単体とは単一の元素からなる物質のことである。我々の周りに存在する単体としては,純金や純銀などのような不純物が混入していない金属,液体ヘリウムなどの不活性ガスなどがある。

 化合物とは2種類以上の原子が結合している分子によって構成されている物質である。分子というのは,固有の性質を持つ物質の最小単位の粒子である。そして後述するイオンとは異なり,電気的には+でも-でもなく中性である。原子が結合することによって,様々な分子が生成する。水素原子2個と酸素原子1個が結合して水分子が生成する。炭素原子1個と酸素原子2個が結合して二酸化炭素分子が生成する。我々の周りに存在する化合物としては,二酸化炭素などのガスや水などの液体,そして砂糖などの固体物質もある。

 原子・原子団が電気的性質を帯びた状態の粒子をイオンという。プラスの電荷を持った粒子(陽イオン)とマイナスの電荷を持った粒子(陰イオン)が結合してできている物質をイオン性物質という。我々の周りに存在する代表的なイオン性物質は食塩(塩化ナトリウム)である。

 その他の状態の物質としては,ガラスやゴムなどの無定形状態物質,プラスチックやナイロンなどの高分子化合物などがある。

 我々の体を作っている物質は,おもに水と有機化合物である。有機化合物は原子が結合した分子で,炭素原子が骨格となってその骨格に水素原子・窒素原子・酸素原子・イオウ原子・リン原子などが結合してできている化合物である。タンパク質・核酸・糖類・脂質などはすべて有機化合物である。そして有機化合物以外の化合物を無機化合物という。

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