最初の生命が満たすべき条件

 『生きている』とはどのような状態のことを指しているのだろうか?医者が人間の死を判断する基準としては,1)呼吸運動の停止,2)脈拍の停止,3)目の瞳孔反射の有無,の3種類の方法で判断する。最近では脳死問題のように,どの様な基準を持って人間の生死を判断するかが社会的な問題となっている。脳死状態では,心臓などの臓器や器官はまだ活動している。そして,各器官の活動が停止しても,それらを構成する細胞は『生きている』状態にあると考えられる。生物の『生きている』状態というのはかなり複雑で,大きく分けると,個体レベル・器官レベル・細胞レベルの3段階に分けられ,この順番でスケールが小さくなっていく。これよりもさらに細分化することも可能であると考えられるので,突き詰めていくと,生物が『生きている』状態と『死んだ』状態の間には,明確な境界線は引き難い様に思われる。

 一方,広辞苑で『生命』の項を見てみると,「生物が生物として存在し得るゆえんの本源的属性として,感覚・運動・生長・増殖のような生活現象から抽象される一般概念」であると定義されている。これではほとんど意味がわからないので,最低限どのような特性を持っていれば生命を持っていると言えるか,ということを考えてみる。

 地球上に最初に出現した生物は,多分一つの細胞であったと考えられる。その最初の原始的な細胞は,構造や機能が非常に単純ではあったが,基本的には現在の細胞(生物)が備えているのと同様な生命の本質的な特性を持っていたと考えられる。生命の本質的な特性として考えられるのは,以下の4つである。

 1. 外界との境界膜を持っている。

 生物の最小単位である細胞は,外界との境界として細胞膜という膜を持っている。細胞膜は水などの小さな分子だけを通す半透膜である。生物は,細胞膜を通して外界との間で物質などの交換を行う。つまり生物は外界との区切りを持つ開放系である。細胞膜は脂質とタンパク質からできている。

2. 自己複製・自己増殖をする。

 生物は自分と同じ子孫を残すことができる。つまり種を保存していく能力を持っている。また,生物個体内では,新陳代謝のように,常に古い細胞と新しい細胞が入れ替わっている。つまり,自己増殖能力によって自分の体を一定の状態に保っている訳である。これらの情報は,生体内のDNA中に保存されている。

3. 自己維持機能を持っている。

 生物が生きて行くためには,外界から食物などの形で物質を補給し,それを基にして生命を維持するための生体構成成分を合成しなければならない。それによって積極的に自己を保存して行く訳である。これらの物質代謝は,生体内では酵素(おもにタンパク質からなる)によって触媒されている。タンパク質はDNAの情報を基にして合成されている。

4. 進化する能力を持っている。

 生物は自己複製・自己増殖をするとともに,時にその姿を変化させる。この変化は自己複製の際にDNAの情報が変異を受けることによって引き起こされる。そして,自然淘汰によって最適者が生き残り,高等な生物へ進化してきた。

 以上の4つの条件を満たすような物質系(原始細胞)が原始地球上に誕生した時点が,地球上における生命の起源であると考えられる。

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